猫に生まれ変わるのもよいかもしれない

もし何かの事件に巻き込まれてしまって、不本意な命の落とし方をしてしまったら。私はきっとこの世に未練たらたらで、まだあの世に行きたくないと強い観念にかられてしまいそうです。こんなことを想像するのは心許なく思いますが、大切な友達や家族のそばで少しけぬくぬく暮らす時間があってもよいかもしれません。その時は猫に生まれ変わってみるのはどうかと思うのです。こんなことを考えたのは、先ほど一匹の猫が主人公の短編小説を読んだことがきっかけでした。不意な事故で亡くなった女性は自分が命を落としてしまったことにも気付かず、猫として夫の隣に寄り添いながら自分の通夜を眺めます。一見切ない小説ですが悲しみを感じさせず、どちらかというと滑稽でユニークな印象をもたらしてくれる物語でした。怒りや嬉しさを込めて「ニャー」と鳴いてみても、「ただただ可愛いい」という印象しか与えないことに少々もどかしさを感じますが、居心地がいい場所で好きな人に撫でられながら暮らすのも悪くありません。
この作品はしっかりとした推理小説に仕上がっており、愛らしい動物の登場がきっかけとなり殺人事件は無事解決、ラストには意外なオチも含まれていて読み応え十分でした。末永く人間として暮らしてゆきたいと思っておりますが、もし少しの間だけ違う者になることができるのであれば、やっぱり猫がいいと完読した後に強く思ったことは言うまでもありません。

お酒の力を借りたい夜もある

考え事がある時、お気に入りのスタンディングバーに入りじっくりと腰を据えて一人でお酒を飲むことがあります。喫茶店でコーヒーを飲む事も好きなのですが、とにかくボーっとしたい時にお酒の力を借りると有効に働くことを遠い過去に知りました。そのため小説を読んでいて、登場人物が寡黙にカウンターに座ってグラスを傾けている姿が書かれていると妙に親近感が湧いてくるようになったものです。また今まで読んできた小説には様々な形でお酒と人が登場し、交わりあっていたことが思い出されます。苦悩や悲しみを抱えながら、それをまぎらわすためにビールやワイン、ウィスキーで心を潤してささやかな気分転換をしているところからは、生きることのもどかしさや切なさを知りました。特に好きなシーンは、ある小説で男性が淡い光が漂うバーの木目調のカウンターで、ビールとナッツを食べるシーンでした。その男性はまめに自炊や洗濯もしており、日々の生活を丁寧に過ごしています。孤独にさいなまれながらも、自堕落にならずしっかりと地に足を着けて暮らしている姿はとても素敵です。そんな彼にとってバーでのくつろぎは極上の贅沢なのではないかと感じたし、このような小さな楽しみは生きることの潤滑油になると思いました。私も自分と向き合う時間を持ちながら、肩の荷を背負い過ぎずにでもしっかりと生きてゆきたいと密かに願っております。